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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)252号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人南利三の上告理由第一点について。

本件売買契約の解除原因として、所論履行期日に被上告人が約旨に違反して突如登記名義を訴外藤井逞治郎に変更するよう申し出たためであるとの事実は、論旨指摘の昭和三三年七月三日付上告人の第二準備書面中に記載されてはいるが、右準備書面は原審において陳述されていないことは記録に徴し明らかであり、その他原審において上告人が所論主張をなしたものと認められるような形跡はない。されば、論旨はその前提を欠くものであつて、採用できない。

同第二点について。

所論は、原審において主張されなかつたことであるのみならず、ひつきよう、原判示にそわない事実を前提として、原審が適法にした証拠の取捨ないし事実認定およびそれに基づく法律的判断を論難するに帰するから、採用するを得ない。

同第三点について。

原審のした所論事実認定は、原判決挙示の証拠によればこれを是認しうる。論旨も、帰するところは、原判示にそわない事実を主張して、原審が適法にした証拠の取捨判断ないし事実認定を非難するものであるから、採用するを得ない。

同第四点、第五点について。

原判決は、所論被上告人が提供した本件不動産売買代金一七〇万円のうち九〇万円が振出人ならびに支払人を株式会社協和銀行大阪支店とする小切手であつて、かかる小切手は取引界において通常その支払が確実なものとして現金と同様に取り扱われているものであると認定しているのである。このような場合には、特段の事情の主張立証なき本件においては、右小切手による提供をもつて債務の本旨に従つてなされた履行の提供と認めるのが相当である。されば、原判決は、結局において正当として是認すべきものである。論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田 克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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